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PLUTO

PLUTO
あらすじ
発端
かつて大きな戦争があった。中央アジアのペルシア王国はロボット産業の育成により飛躍的な発展を遂げていた。独裁体制を掲げる国王ダリウス14世は圧倒的な軍事力をもって隣国の脅威となり、次々と侵略戦争を行う。一方、世界の警察を標榜するトラキア合衆国のアレクサンダー大統領はこれを糾弾し、「大量破壊ロボット製造禁止条約」を提唱。「ペルシア王国が大量殺戮ロボットを保有している」と主張する。同国への調査に法律・ロボット工学などの各分野において優れた見識を持つ人物たちから成るボラー調査団が結成される。その中には日本のお茶の水博士も含まれていた。だが、トラキアの主張する大量殺戮ロボット保有について確たる裏付けはできなかった。調査団が目にしたのは夥しいロボットたちの残骸が置かれた地下空間であり、ペルシアは残骸置き場として利用していただけだと説明する。 確たる証拠が得られないままトラキアはペルシアと戦端を開き、戦争は泥沼と化す。こうして第39次中央アジア紛争は悪化の一途を辿る。やむなく国連平和維持軍として当時世界最高水準とされたロボットたちが派遣された。スイスのモンブラン、ドイツのゲジヒト、ブリテンのノース2号、トルコのブランドとギリシアのヘラクレス、そして日本のアトム。だが、アトムはその意に反して戦災に遭った人々を慰問する「アイドル」として大歓迎を受ける。ゲジヒトはロボット刑事の特性から市内の探索に回される。モンブラン・ノース2号・ブランド・ヘラクレスは、卓越した戦闘能力でロボット兵を次々と破壊。唯一人、徴兵拒否したオーストラリアのエプシロンは罰として戦後処理に駆り出される。彼らこそ一つ間違えば大量殺戮兵器となりかねない優秀すぎるロボットたちだった。だが、平和維持軍に参加した7体のロボットたちは戦争の意義も隠された意図も知ることなく、それぞれが同胞殺しへの罪の意識を抱き、荒廃した街と人もロボットも無残な姿となった凄惨な光景に言葉を失い、全員が一様に「心の疵」を負った。そして役目を終えた彼らは自らの日常へと戻っていった。 ペルシア王国は荒廃し、ダリウス14世は戦争犯罪人として捕らえられた。ペルシアは民主主義を受け入れて共和国となるも、戦争で理不尽に肉親を奪われた人々の怒りや絶望感は抑えようもなく、戦争は完全に終わることなく火種は燻り続ける。そして4年が過ぎる。
事件
ユーロポールのロボット刑事であるゲジヒトは森林火災の後に発見されたモンブランの残骸に言葉を失う。モンブランは戦争参加後、森林レンジャーとして活躍。誰もが慕う存在となっていた。モンブランほどの優秀なロボットが何者かに破壊されたということ自体が信じがたいことだった。同じ頃、デュッセルドルフでベルナルド・ランケという活動家が殺害される。一見するとなんら共通点を持たない二つの事件だが、二つの事件に共通するのは頭部に角を見立てたものが刺されていたことだった。ランケを殺して立ち去ったのはロボットとしか思えない能力の持ち主だった。ロボットは人工頭脳に組み込まれたシステム上、人間を殺害できない。ゲジヒトは過去にただ一人、殺人を犯したロボットブラウ1589と遭う。ブラウの人工頭脳は何度調べても「正常」で人類はブラウを恐れて幽閉した。ブラウはゲジヒトに記憶チップの交換を申し出るが、ゲジヒトは拒否する。更にスコットランドで執事ロボットとして盲目の音楽家に仕えていたノース2号も殺害される。彼は穏やかな暮らしを欲していた。ゲジヒトはトルコに赴き、ロボットスーツの世界チャンピオンであるブランドに遭い、身の危険を警告する。 更に日本の法学者・田崎純一郎も殺害される。田崎の遺体にも角に見立てたものが残っていた。捜査で来日したゲジヒトはアトムと出会う。見た目といい仕草といいアトムは最も「人間の子供」に近いロボットだった。だが、アトムの心はゲジヒトたちとそう変わらないもので、苛酷な体験を経ながら見た目で判断されるアトムも彼なりの苦悩を抱えていた。ゲジヒトは自分より優秀な人工頭脳を持つアトムに自身の記憶チップの解析を依頼。その際、アトムはゲジヒトの隠された秘密を知り、隠れて涙する。 一方、アトムはゲジヒトから得た捜査情報をもとに日本で田崎殺害事件の捜査指揮をとる旧知の田鷲警部に捜査協力する。アトムの解析により、田崎純一郎は人間の客を迎え、お茶とお茶請けの羊羹を出してのんびり談笑した後に、突然あることを思いだし、慌てて名刺を探して電話をかけようとした後に殺害されたのだと判明する。田崎が電話しようとしていた相手はお茶の水博士だった。アトムはお茶の水博士に危機を伝え、殺された人間達に共通するのが元ボラー調査団のメンバーだということを伝える。一方、ゲジヒトとアトムは殺されたロボットたちに共通するのが第39次中央アジア紛争に平和維持軍として駆り出された世界最高水準のロボットだと見抜き、ゲジヒトはギリシャでヘラクレスと接触して警告していた。一方その頃、ブランドはモンブランの仇を討つべく、軍用スーツを持ち出して襲撃者を待ち受けていた。彼の前に謎の巨大ロボットが姿を現す。アトム、ゲジヒト、ヘラクレスはブランドの戦いをモニターするが、奮闘空しくブランドも犠牲となる。 深まる謎 アトムはブランドと敵との戦いの際に人工頭脳が発する奇妙な波形をとらえていた。アトムはそれを「巨大な苦しみ」と表現する。ユーロに戻ったゲジヒトは悪夢にうなされていた。過労が祟って人工頭脳が疲弊していると感じたゲジヒトは妻のヘレナと共に日本旅行を申請するが、二年前にキャンセルされていたことを知る。ゲジヒトとヘレナは二人でユーロ圏を出たことはない。日本旅行をキャンセルした二年前、ゲジヒトとヘレナは捜査研修を兼ねたスペイン旅行を楽しんでいた。そのときの記憶は確かにある。だが、残された写真の多さに違和感を抱く。ゲジヒトのメンテナンスを請け負うホフマン博士はゲジヒトから悪夢のことや日本旅行のキャンセルとスペイン旅行について相談される。二年前にゲジヒトの身に何かが起きて、記憶が改竄された。ホフマンは局長に尋ね、確証は得られないものの何かを隠していると感じて追及する。ゲジヒトはブラウを訪ねて記憶チップの交換を申し出る。ブラウはトラキアのアレクサンダー大統領についている人工頭脳の話をする。一方、ヘラクレスは莫大な資産を投じてブランドの遺体回収作業を行っていた。 アトムの妹ウランは超感覚ともいうべき、人間や動物といった生物だけでなく、人工頭脳の発する「恐怖」を遠く離れた場所でも感じ取れる機能を持っていた。突然発生した局地的な竜巻で輸送車が横転し、事故で放たれてしまった猛獣たちを射殺の危機から救ったウランは別の誰かが発する恐怖を感じ取っていた。アトムは警視庁にウランを迎えに行った帰りにある人物とすれ違う。アトムはその人物を人間ともロボットとも識別できなかった。その人物こそペルシアのロボット兵団を開発し、自身も戦争で身体の多くを失ったアブラー博士だった。 一方、ドイツではアドルフ・ハースという貿易商が犯罪加害者である兄の遺体引き取りに行き、知人の医師に検死を頼む。ハースは兄を殺害したのがゼロニウム弾という特殊合金弾頭だと知る。だが、兄が殺害された2年前のユーロ圏内での使用歴はゼロ。帰宅したハースは子供の勉強する教科書に書かれた事実により、ユーロ圏でゼロニウム弾の発射機能を有するのはゲジヒトのみで、彼こそが兄の仇だと突き止める。そして、なんらかの隠蔽があったと考える。ハースは反ロボット教団の一員という裏の貌も持っていた。ロボットをも一撃で破壊する小型クラスター砲を入手したハースはゲジヒト殺害を狙う。 一方、ヘラクレスはブランドの敵討ちのため戦闘スーツを持ち出す。そこに現れたのは光子エネルギーを持つエプシロンだった。エプシロンはヘラクレスの敵討ちを阻止しようとする。ゲジヒトの前にも現れたエプシロンは残された4人の中で唯一逮捕権を持つゲジヒトに犯人逮捕という希望を託す。これ以上犠牲者が出て世界のパワーバランスが狂えば再び大きな戦争が起きてしまう。戦後処理に駆り出されたエプシロンはペルシアで出会った多くの戦災孤児を手元で養っていた。その中の一人に「ボラー」という言葉しか発することができないワシリーという子がいた。
アトムの死
ウランは何者かの発する微弱な恐怖を感じて学校をエスケープする。そして再開発地区で衰弱しきったロボットの男と出会う。彼は自分でもよくわからぬままに衝動的に何かを描こうとしていた。ウランが男に協力すると彼は見事な花畑を描いてみせた。更に彼は見事な本物の花畑をウランに見せる。それが彼の持つ本当の力だった。一方、アブラー博士は手下のロボットを入国させて何者かの足取りを探っていた。彼が探しているのは「プルートゥ」。男はとてつもなく巨大な何かに酷く怯えていた。ウランが男を慰めると男はただ一言「ボラー」と発する。 謎の男性ロボットの自分探しに付き合うウランは彼の持つもう一つの力である気象天候を自在に操る力を目にする。竜巻を出現させ、大雨を降らせ、植物を加速的に成長させる。ウランの行動に疑惑を抱いていたアトムはお茶の水や警察官と共に駆けつける。アトムの名を聞いたロボットは態度を一変させ「憎い」と言って近付く。男性ロボットの頭から角のようなものが出現するが、突然男性ロボットは倒れてしまう。倒れた男性ロボットに人工頭脳はなかった。そして、工事作業中のロボットがなくしたと探していた一般生活用ボディだとわかる。その頃、アブラーはブランドとの戦いの後、迷走して日本に来ていたプルートゥの復活に立ち会っていた。 お茶の水は久々の休日を自宅で楽しんでいた。だが、VIPである彼には休日の散歩中も警官ロボットのユージロウが張り付いていた。お茶の水は公園で弱り切ったペットロボットを見つけ自宅で修理を試みる。科学省長官である彼のもとにはペルシアへの追加派遣部隊をトラキアに要請された防衛省から休日にも拘わらず、催促が来ていた。ロボットを兵器として送り込むつもりはないとお茶の水は怒鳴る。そんな中、孫の隆史が竜巻を目にしたと連絡してきた。ペットロボットの修理を再開したお茶の水だが、形式が古すぎて部品が見つからず、修理の甲斐無くペットロボットは衰弱して息を引き取る。するとペットロボットの飼い主を名乗る男性が現れる。お茶の水と対面した男はゴジを名乗り、アトムを日本で唯一竜巻が発生している場所に向かわせなければ後悔すると脅す。お茶の水はゴジとの対話を辛抱強く続ける。ゴジは訪問の際にユージロウを破壊しており、自動的に警察に通報されていた。警官隊の到着より早く博士の危機を察知したアトムが駆けつける。ウランも隆史の愛犬ボビーの信号を受け取り現場に向かっていた。ゴジは逃走を図り、ゴキブリ型のロボットが人工頭脳のみを持ち去る。お茶の水は一連の事件の真犯人がペルシアを軍事強国化したゴジ博士だとして捜査の指揮をとるゲジヒトに連絡しようとする。 憎悪に支配されたプルートゥが隆史の家を襲撃し、先着したウランはロボット犬ボビーと共に隆史とその母親の生存を確認する。そして、プルートゥと対峙し、アトムに「来ちゃダメ」と警告する。だが隆史やウランを心配するアトムが引き下がる筈がなかった。アトムはプルートゥとの戦いに挑むが敗北。損傷一つ負わないまま、ウランの目の前で死亡する。 同じ頃、ゲジヒトは普段とは違う悪夢をみていた。不安に駆られたゲジヒトはそれを保存する。そんなゲジヒトをハースが狙っていた。ゲジヒトに迫りながら殺す勇気が持てないハース。彼の車には爆弾が仕掛けられていた。すんでの所で命を拾ったハースは呆然となる。悪夢と刺客の存在をホフマンに伝えたゲジヒトはヘレナとの日本旅行のため空港に向かい、ヘレナに促されたゲジヒトはニュースでアトムの死を知る。悪夢の正体はアトムの最後のメッセージだった。「ゲジヒトさん、プルートゥはあなたと同じ、僕を殺したのはあなた?」というメッセージを確認したゲジヒトは昏倒する。アトムが死に、残るロボットはゲジヒト、ヘラクレス、エプシロンの三人となっていた。トラキアの地下にDrルーズベルトの「もうすぐ終わる」という言葉が響く。
ゲジヒトとハース
様々な思念がごっちゃになっていた。アトムをトビオと呼び、歩く姿に涙を浮かべる見知らぬ男。男の顔がヘレナに変わりアトムが壊れかけの子供ロボットに変わる。「ここに寝ていたのは子供だ。お前等は俺の子供の上に爆弾を落とした」と悲痛に叫ぶ中東系の男。激しい憤り。憎悪。ゲジヒトはコンクリートに落書きされた花畑を憎悪のままに破壊する。悪夢から覚醒したゲジヒトは署からの緊急通報で、心配するホフマンとヘレナを残して飛び出していく。 一方、ハースは警察で尋問に遭っていた。ユーロポールの上層部はハースの素性を知っていた。解放されたハースは自分のオフィスで留守番メッセージを聞き、団長が自分を殺そうとしていたことを知る。怯えるハースの前に現れたのはゲジヒトだった。ゲジヒトはハースの護衛を命令されたと語る。ハースにしてみれば正に針の筵だった。仇がすぐ近くに居ながら手出しができず、息子もゲジヒトに夢中。しかも自分も命を狙われている身で最も頼りになるのがゲジヒトだった。ハースはとっとと調べて出て行ってくれとゲジヒトにデータを扱わせる。TVをつけるとニュースがエプシロンの産みの親ロナルド・ニュートン・ハワード博士の死を伝えていた。冷笑したハースはとっておきだと言ってペルシアの収監施設で起きたトラブルの際に偶然録画した映像を見せる。それはボラー調査団のメンバーの名を呪詛のように呟き続ける男だった。ゲジヒトは事の重大さをまるで分かっていないハースを問い詰める。映像を極限までクリアにして浮かび上がったのは収監で変わり果てたダリウス14世だった。ダリウスが呪詛するボラー調査団の中にホフマンの名が含まれていることを知ったゲジヒトは動揺するが、ハースは誰かに命を狙われていた。誘導光熱弾が撃ち込まれ、ゲジヒトの判断で事なきを得る。怯えたハースは反ロボット教団に所属していることを明かし、証言者保護法の適用を申請する。ゲジヒトからセーフハウスに案内される途中、トイレに立ち寄ったハースは清掃用ロボットから「家族を犠牲にしたくなければゲジヒトを殺せ」という教団の命令を受け取る。激昂したハースは清掃ロボットを破壊しようとするが物凄い形相のゲジヒトに睨まれる。ハースは「お前はその顔で兄貴を殺したのか」と言い放つ。 その頃、ホフマンは窓から飛び込んだ何者かに連れ去られ、自分のオフィスが炎を上げるのを確認して青ざめる。彼の窮地を救ったのはエプシロンだった。エプシロンは産みの親であるニュートン博士が殺されたことに怒り、制御を失いかけていた。ホフマン保護のためエプシロンはギリシアに向かう。ヘラクレスは皮肉を言うがエプシロンにはどうしても確かめなければならない事実があった。キンバリーで行われた三博士による秘密会議。そこに集まったのはゼロニウムの開発者であるホフマン、光子エネルギーのニュートン、そして人工頭脳の世界的権威天馬博士だった。三人は戦争根絶のためのロボットを作るため、互いの研究を開示しあう目的で集まった。ホフマンとニュートンはカードを開くが天馬は「完璧な人工頭脳は悩み、苦しみ、間違いを犯す」と言って自らのカードは伏せたまま、警告として「これ以上ロボットを人間に近づけると恐ろしいことが起きる…もう手遅れかも知れないが」と言い残して退席する。そして、表舞台から姿を消した。後任のお茶の水に科学省長官の座を譲る際に天馬は「人工頭脳は作るものでなく育つものだ」と言い、深い哀しみ、挫折が人工頭脳を成長させると説き、アトムを「失敗作」と断じて出て行った。お茶の水はアトムの名誉のため、アトムこそ人類科学が到達した最高点だと天馬に食い下がった。だが、お茶の水にあなたはなにも分かっていないと説いた天馬は間違う頭脳こそが完璧なのだと説き、人を殺すほどの憎悪を持った人工頭脳が完成したとき、地上最大のロボットが誕生すると語る。天馬だけが事件の発生とその先に待つ未来を正確に予測していた。ヘラクレスに天馬は自分の望むロボットを作り上げたのかと問われたホフマンは「作り上げたと思うよ」と力無く答える。
消せない憎悪
ゲジヒトはハースをセーフハウスに届けた後、ブラウのもとを訪れる。記憶チップを交換したアトムとブラウはゲジヒトが犯した「殺人」を知っていた。何故殺したか?それは抑えきれない憎悪だった。命乞いをする相手にゼロニウム弾を撃ち込んだ。逆にすべてが腑に落ちたゲジヒトは任務のためハースのもとに戻る。一方ハースは事ここに到った経緯を妻に打ち明ける。呆れた妻はハースの兄がどうしようもない変質者で身の毛のよだつ事件を数多く起こしたと非難する。だが、ハースはだからといってロボットに殺される道理はないと言い放つ。教団の命令には続きがあり、セーフハウスの近くに武器が隠してあるというものだった。ハースは監視の目を避けて武器を回収しようとするが見つからない。そして人間の刑事から反ロボット教団に尾行されており、場所を変えなければならないと告げられる。 一方、エプシロンとヘラクレスのもとにプルートゥが接近していた。エプシロンはヘラクレスの戦いを援護できないと告げる。ヘラクレスは徴兵拒否したお前が正しかったとエプシロンに告げ、ある戦友について語る。彼はロボットだというのに戦闘の後、手を洗い続けた。「ボミング」だと指摘したエプシロンにヘラクレスはそうではないと語る。ヘラクレスは「何か」を知っていた。これから来るのは「亡霊」だと告げてプルートゥとの戦いに挑む。プルートゥとヘラクレスの壮絶な戦いは続き、プルートゥも損傷する。ヘラクレスは戦闘スーツから一般生活用ボディに切り替え、プルートゥを追い詰めるが逆に角に絡み取られて敗死した。エプシロンは無意識のうちに戦いから逃げている自分に気付いて動揺する。エプシロンはゲジヒトに連絡を請うが彼は回線を遮断していた。 ゲジヒトは移動しながら思いだした過去と対峙していた。捜査員として職務にあたる彼はロボットの子供を破壊された親ロボットたちの悲痛な嘆きを聞いていた。連続幼児ロボット誘拐破壊事件。誘拐された後、電子頭脳を抜き取られ、身体をバラバラにされる凄惨な手口。捜査にゲジヒトが投入されたことは次の犯行を防ぐために周知される。不思議なことに事件があった場所で監視システムの損傷率は逆に低いほどだった。職務中のゲジヒトにヘレナから悲痛な連絡が入り、血相を変えたゲジヒトは犯人は監視システムの修理を行った業者だと断定。容疑者を追い詰めたゲジヒトは怒りに任せてゼロニウム弾を発射した。「逃げちゃだめなんだ」と言い聞かせたゲジヒトは任務に復帰する。同僚の刑事に現場放棄を詰られながら、ゲジヒトはハース一家の移動を請け合う。だが、すぐに護衛の刑事たちの車両が破壊される。刺客の使う武器を聞かれたハースは自分の入手したのと同型の小型クラスター砲だと答え、兄の敵討ちのためゲジヒトを殺害しようとしていたことを打ち明け、自分はどうなってもいいから妻と子供だけはと頼み込む。カーチェイスの末にゲジヒトたちは乗っていた車両を破壊され、投げ出されたゲジヒトはハースの妻子を守る。ロボット教団の刺客はハースを最初から生かすつもりはなかった。ハースの前にゲジヒトが盾となって立ち塞がる。小型クラスター砲の直撃をゼロニウム弾で相殺したゲジヒトはガス銃を突きつけて正規の手続きに則り刺客を逮捕した。だが、ゲジヒトの損傷は大きかった。運ばれるゲジヒトにハースは盾となったことに感謝の涙を浮かべる。そんなハースにゲジヒトは人間の憎しみは消えるのですか?と問う。消去しても消去し切れない憎しみ。ゲジヒトがなにより恐れていたのは憎しみを抱いてしまった自分自身だった。
ゲジヒトの死
ウランは兄アトムの死に落ち込んでいた。伴校長はそんなウランを静かに見守る。だが、ウランは自分以上に落ち込んでいる人物の存在に気付く。追った先で目撃したのは天馬飛雄の墓標だった。まるで同じ人が二度死んだかのような哀しみだとウランは評する。交通事故で亡くなったトビオを愛するが故に姿形はそっくりでも性格が悉く自分好みでトビオとは正反対だったアトムを素直に愛せなかった天馬だったが、お茶の水の期待に応えて科学省に現れる。天才的な技でアトムの修理と人工頭脳の解析を行った天馬はお茶の水の措置が完璧で目覚めない理由を疑う。かつて天馬はさる国の要請で「完璧なロボット」を作ったことがあった。人工頭脳に60億人の性格をエミュレートしたそのロボットは遂に目覚めなかった。アトムが目覚めない理由がそれと同じならば著しく偏った感情を注入して統合を図ることで目覚める。だが目覚めたそれはアトムなどではなく、別の怪物になっているかも知れないとお茶の水に説明する。お茶の水はゴジ博士について天馬に訪ねるがそんな人物など知らないと言い切られる。 ゲジヒトはダリウス14世が収監中のカラ・テバ刑務所に向かう。既に公判は始まっていたものの不遜な態度により裁判が進まず、ダリウス14世は人権団体からクレヨンを受け取っていた。トラキアが管理する刑務所での間接接見は埒があかず、ゲジヒトはダリウス14世本人の独居房に出向いて接見する。事件への関与をダリウスは婉曲に否定。そして獄中にクレヨンで描かれた花畑こそがプルートゥの本質だと指摘し、舌を噛む。通信途絶で直接出向いたエプシロンからヘラクレスの遺品とキャッチした花畑に立つ青年の映像を受け取る。ペルシアのサマルカンドに出向いたゲジヒトは戦争で壊れた花売りの少年ロボットモハメド・アリと出会い、花をしつこく薦められる。アブラー博士と対面して話を聞いたゲジヒトはアブラーがロボットではないと結論づける。ロボットは嘘をつけないが、アブラーは青年を知らないと嘘をついていた。アリから映像の青年がサハドだと聞き出したゲジヒトはサハドの留学先であるオランダに向かう。植物の研究に没頭するサハドは純朴で心優しい青年ロボットだと皆に慕われていた。サハドが品種改良で作り出しその力を恐れた新種のチューリップ、それが「プルートゥ」。他の花をすべて枯らしても孤高に咲くプルートゥの力を恐れたサハドは鉢植えに隔離した。その後、父親の死でサハドは故郷に帰国した。入居申請時の写真からサハドの産みの親はアブラー博士だと判明する。 一方、ニュートン博士の葬儀の席でエプシロンはアブラー博士と出会う。言葉巧みにエプシロンに接近するアブラーだったが、ワシリーの様子がおかしくなり「ボラー」という言葉を連発する。ブラウを訪ねたゲジヒトは優れた人工頭脳は他人のみならず自分にも嘘をつき欺くと助言される。ゲジヒトはオランダのザアンダムでアブラー博士を名乗る何者かが犯人だと断定する。 そのころホフマンはデュッセルドルフの欧州科学フォーラムでゼロニウムの平和利用についての演説を終えて会場を後にする。トイレに立ち寄ったホフマンの前にアブラー博士が現れる。そしてゲジヒトの人殺しの可能性に言及し、憎しみを除去できるロボットを羨ましいと表現する。その後、ホフマンは何かに乗っ取られた警備ロボットに拉致される。ゲジヒトはザアンダムの地下でアブラーの部下たちに襲撃される。彼らは何かを守っていた。地下を進んだゲジヒトはプルートゥと遭遇。ゼロニウム弾でプルートゥを弱らせたゲジヒトはサハドがプルートゥになった経緯を知る。アブラーから人質交換を提案されたゲジヒトはプルートゥを解放し、ホフマンの危機は救われた。ゲジヒトはユーロポールの上司に辞職を申請、許されなければ長期休暇を申請したいと言い残して現場を後にする。更にゲジヒトはデュッセルドルフにいるヘレナに連絡し子供を申請しようと持ちかける。解放されたホフマンに連絡したゲジヒトは犯人がアブラーだと判明したがお茶の水の指摘した真犯人はゴジという言葉がひっかかっていると告げ、ホフマンにもう悪夢を見ることはないと告げる。アムステルダムに戻ったゲジヒトは辞職や休暇申請を撥ね付けた上司に何故人殺しとして裁かず記憶を消したと迫った後、突如現れたアリに撃ち抜かれて死亡した。
エプシロンの戦い
ゲジヒトの死から二ヶ月後、ホフマンと共に来日したヘレナは哀しみを抑えて気丈に振る舞っていた。お茶の水とホフマンはゲジヒトの死が一連の事件とは無関係だと処理されたことや、ゲジヒトに超法規的な記憶改竄が行われていたことを話す。一方、ヘレナは宿で待っていた天馬にゲジヒトの記憶チップを渡して、天馬の胸で号泣し、天馬もアトムの死に泣く。ゲジヒトの残した魂に天馬はアトム覚醒への一縷の望みを託す。かつてペルシアで天馬は全く同じことをした。目覚めない完璧なロボットに生前のアブラーの最期の感情を注ぎ込んだのだ。そして完璧なロボットは覚醒した。アトムを生き返らせるためなら悪魔にもなると宣言した天馬はゲジヒトの記憶チップをアトムに挿入する。 遂に最後の一体となったエプシロンはゲジヒトの死の瞬間の憎悪について考えていた。雨天が続き太陽光をエネルギーとするエプシロンにとっては芳しい状況ではない。彼のもとに護衛ロボットのホーガンが派遣される。子供たちのサプライズパーティに参加したエプシロンとホーガンはワシリーの歌う奇妙な歌を聴く。気になったエプシロンはトラキアにいる旧友で気象観測ロボットのアーノルドに3年前にペルシアで発生した異常現象について確認する。その後、エプシロンは何かを感じたワシリーから初めて名前を呼ばれ「死なないで」と告げられる。エプシロンはワシリーを保護した日のことを思い出していた。国連軍のスコットに命令されたエプシロンはボラー調査団が発見したロボットたちの残骸を処分するよう命じられる。そのとき現場近くに生存反応を確認したエプシロンは慌てて子供を保護する。それがワシリーだった。ホーガンに案内されたセーフハウスで出世したスコットと再会したエプシロンは子供たちの危機を感じ取り、更に自分たちにも危機が迫っていると察知しホーガンと共に脱出する。スコットも元ボラー調査団の一員だった。ホーガンに子供たちを任せ、エプシロンは竜巻の中のプルートゥと対決し勝利。ホーガンに“撃破した”と語る。 その少し後、ワシリーに養子の話が突如舞い込む。不自然に感じたエプシロンはワシリーの行き先がノルウェーのオスロだと聞いてホーガンと共にオスロに向かう。エプシロンが撃破したといったのは「嘘」だった。そして、ワシリーはビーゲラン城にエプシロンを誘い出すための罠だった。ホーガンにワシリー救出を任せたエプシロンはプルートゥと再戦する。エプシロンはプルートゥの哀しみを感じ取って見逃した。夜明けで光子エネルギーを得たエプシロンはプルートゥことサハドの説得を試みる。だが、サハドはもっと巨大な何かを恐れていた。ホーガンとワシリーを救うため両手を切断してその力でバリアーを張ったエプシロンは制御不能のサハドに食い殺される。「誰か僕のかわりに地球を…」それがエプシロンの最後の言葉だった。
アトム覚醒
エプシロンとプルートゥが戦う同じ頃、東京では天馬飛雄の墓参りをしているウランと天馬が対面していた。ウランの持つ感性に天馬はさすがお茶の水の傑作と感心する。ウランは二つの巨大な哀しみがぶつかりあっていると表現。ウランはアトムに会わせて欲しいと天馬に懇願し、天馬は目覚めないアトムのもとにウランを案内する。その頃、エプシロンが敗北しその残骸が地表に降り注いでいた。アトムは突如覚醒する。「わかっているよエプシロン…、わかっているよゲジヒト…」。心配するウランをよそに覚醒したアトムの様子は明らかにおかしかった。 お茶の水はアトムの覚醒を極秘とし、地下施設に隔離する。天馬は姿を消していた。アトムはペンを求め、隔離室に数式を書き始める。アトムの書き始めた数式は「反陽子爆弾」の数式だった。お茶の水の見守る中、アトムは数式を完成させる。天馬の向かった先はブラウの許だった。目覚めた瞬間にアトムが発した信号を天馬はアトムが「地球を滅ぼす数式」だと考え、残る優秀な人工頭脳を持つブラウを訪ねた。数式を完成させたアトムは脱走。そして密かに監視していたDrルーズヴェルトに「僕を怒らせない方がいいよ」と警告する。心配したお茶の水はアトムの後を追う。アトムは「もう大丈夫です」とお茶の水を安心させる。 ゲジヒトの墓参りをしていたホフマンの前に天馬が現れる。天馬の言葉でアトムの復活を確信したホフマンだが、天馬は「我々科学者はどこまで踏み込むことが許されるのだろう…」という言葉を残して立ち去る。そして、アブラーの手下に拉致される。アブラーと対面した天馬は巨大ロボットボラーを見せられる。そして、アブラーはボラーをサイボーグにするため自身の脳を移植して欲しいと天馬に依頼するが、お前は私が作ったロボットでゴジとはお前のことだと指摘される。アブラーの姿で暗躍していたのはゴジだった。天馬はお前を救えるのは私だけだと言うが、ゴジの人工頭脳はゴキブリ型ロボットに抜き取られる。 ブラウの前にアトムが現れる。ブラウはアトムとの再会に喜びその手に触れ「あたたかさ」を感じる。ブラウはアトムの頼みを了承し再会を誓う。更にヘレナの前に現れたアトムはゲジヒトの真意について伝えるが記憶改竄の事実については「嘘」をつく。アトムの嘘にヘレナは救われる。 その頃、トラキアのアーノルドは異常な地下活動を観測して上司に報告していた。エデン国立公園の地下にあるマグマ溜まりが異常に活性化していた。何かの衝撃でそれが地上に噴出すれば大惨事となると警告する。 アトムは田鷲やお茶の水に一連の事件の真相を伝える。元ボラー調査団を殺害した事件の真犯人は亡くなったアブラー博士を騙るゴジというロボット。天馬博士に作られた「彼」は完成しても目覚めなかったがアブラーが死に際し記録した最後の感情である「憎悪」で意識を統合して目覚めた。そして、ゴジは自分がロボットだと思っておらず、アブラーだと信じていた。元々、ダリウス14世がアブラー博士に製作を依頼したのは惑星改造用ロボットのボラーであり、ボラーの当初の目的は砂漠地帯の緑化だった。この悲願はサハドも理解しており、彼はそのためにオランダに留学して植物学を研究していた。だが、ボラーの開発に頓挫したアブラー博士は大量の失敗作を地下に隠し、助手となるロボットを求めて天馬博士に最高のロボットを発注した。ボラー調査団が発見したのは正にボラーのテストタイプたちの残骸だった。ペルシアのロボット兵団を恐れたトラキアが一方的に開戦し、国土が焦土化するとダリウス14世はゴジが完成させたボラーにトラキアへの復讐を託す。そして、父アブラーの死で帰国したサハドをゴジがプルートゥに変え、7体の優秀なロボットに対する復讐心を植え付けた。結果として元ボラー調査団はお茶の水とホフマンを残して全員が死亡し、7体のロボットたちも全滅した。そしてボラーはトラキア壊滅のための反陽子爆弾となっていた。 ダリウス14世は法廷で地震に見舞われ「もうすぐすべてがはじまりすべてが終わる。やったのは私ではなくアブラーだ」と嘯く。 地上最大のロボット アトムはゲジヒトたちの墓参を済ませるとプルートゥが待ち構えるエデンに向かった。アトムとプルートゥの決戦が始まる。 同じ頃、アーノルドが事態の全貌を伝えていた。エデン国立公園の地下に反陽子爆弾がありそれが爆発して大噴火を誘発すれば一ヶ月でほとんど全ての生物は死に絶える。既にその兆候は表面化していた。動揺したアレクサンダーはDrルーズヴェルトに確認する。彼は反陽子爆弾の正体こそが“地上最大のロボット”「ボラー」であり、生物は死滅するがロボットだけは生き残ると指摘。そして、生き残った人間はすべてアレクサンダーにあげるよと告げる。人類の間接支配を目論むDrルーズヴェルトの狙いは自分の脅威となる7体のロボットをプルートゥに始末させ、天馬が産み出した“地上最高のロボット”ゴジの立てた計画の全貌を知った上で悲劇の連鎖が起きるべく愛国家のアレクサンダーを操縦した。 アトムは他の6体のロボットたちの無念を憎悪としてプルートゥにぶつける。ウランはそのことに気付いてアトムを止めようとする。憎悪が過ぎれば怪物と化す。アトムにそんな過ちを犯させまいとウランは煩悶するが、伴はアトムを信じるんだとウランに告げる。同様にお茶の水がアトムの真意に気付きエデンを目指していた。 プルートゥに止めを刺そうとしたアトムの脳裏にゲジヒトの最後の記憶が蘇る。「憎しみはなにも産み出さない」。アトムは止めを思いとどまり、感情を共有し自我を取り戻したサハドとともに訳も分からず泣く。 2年前、ゲジヒトは人間の子供の誘拐事件を担当し、両親が救出された子供を抱いて泣くのを目撃した。「地球が終わってもお前を放さない」。その同じ現場で死に瀕した子供型ロボットを見つける。廃品業者から500ゼウスで買い取った子供にロビタと名付け、ヘレナと共に大切に育てていた。ロビタは歩けるようになり、ゲジヒトをパパ、ヘレナをママと呼ぶようになる。ゲジヒトはヘレナと共に「地球が終わってもお前を放さない」と言ってロビタを抱きしめる。だが、連続幼児ロボット誘拐破壊事件の担当となったゲジヒトのことをユーロポール上層部はマスコミにリークした。そのことでロビタが誘拐犯であるハースの兄に掠われる。ゲジヒトがハースの兄を捕捉したとき、ロビタは時既に遅く亡骸となっていた。愛する息子を殺された親としての怒りがゼロニウム弾を発射させ、結果的にゲジヒトを「人殺し」にした。ユーロポールの上層部は自分たちの判断の誤りを認めることなく、事件の隠蔽を図り、ゲジヒトとヘレナの記憶を改竄することでスキャンダルの発覚を防いだが、ロビタという息子の喪失感は二人の心の中にしこりとなって残り続けた。プルートゥを退けたゲジヒトの実力を知ったゴジはハースを救った際に負った損傷と、子供型ロボットに対する愛情というゲジヒトの弱点につけ込んで彼を殺害した。 アトムとサハドはボラーを止めるべく火口内に侵入。だがサハドはアトムに「ウランによろしく伝えて欲しい」と言い残すと腕ごとアトムを地上に放り出す。そして噴出するマグマを氷柱に変えた。世界はサハドにより救われた。アトムは奇跡の目撃者として平和な世界を望んでいた7人のロボットたちのことを思って感慨に浸る。
エピローグ
ブラウ1589が突如脱走する。行き先はトラキア合衆国の地下施設だった。ブラウはアレクサンダーにアトムに感じたのと同じ「あたたかさ」を感じて解放するが、Drルーズヴェルトに槍を放った。
外部リンク
公式サイト
Wikipedia
PLUTO
(ぷるーとぅ)
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